Spin-Orbit Tomography – 反射光変動による地球型系外惑星の表面マッピング法
これまでに数千個近い系外惑星が発見され、その中には地球のように生命が存在し得る惑星の候補も含まれつつあります。生命を宿している可能性のある惑星の表面環境を理解することは、生命探査における重要な第一歩です。例えば地球では、大陸と海が共存していることが、陸の風化による栄養塩供給などを通じて、生命の維持に重要な役割を果たしています。
しかし仮に地球型惑星が発見されたとしても、その距離は非常に遠く、かつサイズも小さいため、表面を直接空間分解して観測することはほぼ不可能です。最も近い恒星系を公転する地球サイズの惑星であっても、その見かけの大きさは月の砂粒程度に相当します。太陽系内の衛星エウロパと比較しても、近傍の地球型系外惑星の見かけのサイズは 10 万倍以上小さくなります。このような微小な天体を空間分解するためには、例えば直径 3 m 級の宇宙望遠鏡を 150 機規模で編隊飛行させるといった、極めて大規模な干渉計が必要になります(Labeyrie 1999)。
一方で、惑星を空間分解できない場合であっても、主星光の反射(散乱)を観測することで、惑星表面の組成に関する定量的な情報を得ることが可能です。私たちはこの点に着目し、惑星の反射光の時間変動から表面の二次元分布を推定する手法として Spin-Orbit Tomography(SOT)を開発しました[1]。この手法は、表面組成の違いによって反射光スペクトルが異なることに基づいています。惑星表面・主星・観測者の幾何学的配置に応じて、観測に寄与する表面領域は変化します。観測されるスペクトルは、主星に照らされ、かつ観測者から可視な表面領域における各地点の反射光スペクトルを、幾何学的重みを付けて積分したものと解釈できます。
惑星は自転および公転運動を行うため、観測に寄与する表面領域は時々刻々と変化し、条件によっては惑星表面の大部分が時間をかけて観測されます。その結果、年間にわたる反射光ライトカーブには、惑星表面分布を再構成するための情報が含まれていることになります。
反射光ライトカーブにトモグラフィーの原理を適用することで、惑星表面における陸地と海の二次元分布、すなわち系外惑星の「世界地図」を推定することが可能になります。トモグラフィーとは、医療分野における CT スキャンと同様に、複数の視点や条件下で得られた重ね合わせデータから、空間分布を逆問題として復元する手法の総称です。本研究では、このような手法を用いて系外惑星の生命生存環境(ハビタット)を探る理論的枠組みを構築するとともに、現在提案されている観測装置における検出可能性の検討を行っています。この課題は数理的側面が強く、スパースモデリング、最適化、ベイズ解析、非負行列分解などの情報科学的手法を取り入れて研究を進めています。
さらに詳しくは 天文月報の記事, や https://github.com/HajimeKawahara/sot/wiki にあります。
研究費
本研究は、ABCサテライト研究・三菱財団のサポートを受けています。
References
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