銀河群・銀河団ハローの成長と大規模構造

大規模構造の交差点をX線で観測する

宇宙空間上にちらばっている銀河は, 一様に分布しているのではなく, まるでクモの巣のようにネットワーク状に分布していることが知られています. このような分布は, 背後に存在する直接観測できない物質, 暗黒物質の分布を反映しているとされ、宇宙の大構造と呼ばれています。一方、観測可能であるはずの普通の物質, バリオンのうち, 銀河が占める割合は数パーセント以下にしかなりません. バリオンのうち一割程度は, 暗黒物質の大きな塊に閉じ込められたガスである銀河団ガスです. この銀河団ガスは, バリオンの中で最も高温で, 放射される強いX線によりで銀河団全体が光り輝きます(X線ハロー). しかし残りのガスは, 実はまだほとんど見つかっていません. それらは、クモの”糸”の部分に対応するフィラメントと呼ばれる領域などに存在していると考えられています.

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図1:銀河分布のクモの巣構造 白い点一つ一つが銀河の位置を示している. 線で表されたフィラメント構造はフィラメント検出コード「DisPerSE」によって可視化されている.

  銀河データから得られた大構造の中からこれまで見つかっていないガスを探すために, フィラメントの交差点に着目しました。このような交差点にはそれぞれのフィラメントから物質が流入し, 中心にハローが形成されつつあることが期待されます. フィラメントからの物質の合流点という意味で, このような交差点をフィラメント合流点と呼ぶことにします. 実際多くの銀河団はこのようなフィラメント合流点に位置することが多いのですが, 逆に合流点であるのに銀河団が見つかっていないところも多いのです. そこで, これまでのX線全天探査で何も検出できなかったフィラメント合流点の一つを, 高感度のすざく衛星で長時間観測しました.   すると観測したところに形の変わった小さいX線ハローSuzaku J1552+2739がみつかりました. このような, 銀河団よりひとまわり小さいハローは銀河群と呼ばれ*, 通常のX線全天探査では発見しにくいものの一つです. ところで普通の銀河群X線ハローは一つ目玉ですが, Suzaku J1552+2739は中心に二つ (A, B), 周囲にも幾つかのピーク(例えばC)が見て取れます. このような性質はこの銀河群が現在, 成長期であることを示唆しています. 銀河群や銀河団は, 普段は周囲から物質が降り積もってしずしずと成長しますが, 時には大きな塊がぶつかってきて急激に成長することもあります. これは衝突現象と呼ばれ, 大きな銀河団では数多く見つかっている現象です**.

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図2:交差点にあった銀河群 上がX線輝度で、下が実質的に温度を示すハードネス比(赤い方が高温)。

ところで, 大きな塊が銀河群に落ちてくると,その衝撃でガスの温度が上がることが期待されるので, これを検出できれば衝突現象の大きな証拠となります.上図の下は, Suzaku J1552+2739のハードネス比***とよばれる温度分布を表す量に基づいて色を塗り, X線の強度を等高線で重ねたものです. Bの下付近の温度が上昇して赤くなっているのが見て取れます。この高温の場所, ホットスポットは周囲の温度約二千万度にくらべ, 四千万から五千万度あると分かりました. これはBに対応する塊が図の上部から衝突してその前方のガスを圧縮して加熱した, と解釈できます.

 衝突銀河団は時には十億度を超えるような派手な現象で, 強いX線シグナルを出すので, これまで盛んに研究されてきました. しかし, その影で銀河群のような小さなスケールでも、地味に衝突現象が起きていることが確認できます. このような小規模な合体を繰り返し, 銀河群は最終的に巨大な銀河団となっていくのでしょう.

宇宙のガスの大半は銀河団ほど高くなく、まだ見つかっていません。銀河地図の助けを得ながら高感度の衛星で、このような隠れたガスの世界を探っていくことが可能です。実際、2011-2012年のすざく衛星による観測であらたに5つのfilament交差点を観測したところ、どれも中心になんらかのX線ハローが検出され、そのうち二つは衝突現象を示唆する銀河群スケールのハローでした(Mitsuishi, H.K.+ submitted)。

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図3:新たに交差点に見つかった二つの衝突銀河群候補。

Radio relic銀河団をX線で観測する

上の例では大規模構造の交差点に着目し小スケールのハロー衝突現象を見つけましたが、もっと大規模な衝突現象はどのように発見できるでしょうか?昔から行われているのは不規則形状の銀河団や電波放射している銀河団を探すことです。最近、Radio relicといわれる弓上の電波構造がみつかる銀河団がふえてきました。このRadio relicは衝突の時の衝撃波面をトレースしていると考えられています。そこで、もっとも明確なRadio relicが見えているCIZA 2242.8+5301 (図4)を中心にすざく衛星でX線観測を行いました。

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図4. Radio relic cluster, CIZA 2242.8+5301の電波、X線合成イメージ(赤:すざくX線高温成分2-5 keV, 青:すざくX線低温成分0.5-2 keV, 緑:電波シンクロトロン放射WSRT1.4 GHz. Credit: H.Akamatsu, SRON)。

X線観測を行うとプラズマの温度(と密度)が測定できるので、衝撃波面だとすると、Radio relicを境に急激な温度の変化が見られるはずです。CIZA 2242.8+5301ではたしかにRadio relic前後で温度の急激な変化が見られます。このような観測に基づいて、現在、SRONの赤松氏らと共にRadio relic clusterにおける衝撃波を系統的に調べています。X線観測と同様に電波観測+衝撃波モデルからもマッハ数が求まるのですが、系統的に調べることで両者に不一致があるのかどうかを調べ、銀河団における衝撃波理論に制約を与え、ハローが最も成長する大規模衝突時にエネルギーがどのように分配されているのか理解することを目指しています。

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図5. 銀河団中心からRadio relic方向への温度分布。縦線の場所がRadio relicに対応している。

References

SUZAKU Observation of a New Merging Group of Galaxies at a Filamentary Junction

Hajime Kawahara, Hiroshi Yoshitake, Takahiro Nishimichi, Thierry Sousbie, ApJ Letters,727,L38 (2011), ADS, IOP

Exploring Hot Gas at Junctions of Galaxy Filaments with Suzaku

Ikuyuki Mitsuishi, Hajime Kawahara, Norio Sekiya, Shin Sasaki, Thierry Sousbie, Noriko Yamasaki, Accepted by ApJ, arXiv:1311.5042

Systematic X-ray Analysis of Radio Relic Clusters with SUZAKU

Hiroki Akamatsu, Hajime Kawahara, PASJ, 65,16 (2013), ADS

*銀河団と銀河群の境は曖昧であるが, だいたい全体の温度が2 keV つまり2300万度程度以下のものを銀河群とすることが多い. 通常, 銀河団や銀河群の質量や半径が大きいと温度も高くなる. **例えば弾丸銀河団と呼ばれる衝突銀河団ではX線で光るガスと重力レンズから測定された物質分布が大きく異なることから暗黒物質存在の証拠であるとされている. ***ハードネス比とは,X線スペクトルの高エネルギー成分と低エネルギー成分の比のことである. ガスの温度が高いとX線スペクトルが高エネルギー化するためハードネス比が高くなる.これを利用して温度を間接的に測定することができる.