ケプラー衛星ライトカーブの解析

主に増田賢人氏(東大博士課程-> Princeton University, Sagan fellow)、上原翔氏(首都大修士課程の -> 民間企業)らと、ケプラー衛星データの天体について、独自の観点から様々な解析を行っています。これまで、周期が~2年以上、すなわちケプラーデータ中に1回か2回しかトランジットを起こさない天体や蒸発惑星候補などについての研究を行ってきました。皆でわいわい議論しながらライトカーブを眺めるのは楽しいものです。

自己重力レンズ連星

自己重力レンズ連星 (Self-lensing binary; SLB)は、連星のうちのコンパクト星が、もうひとつの星の前を通過する際に重力マイクロレンズ増光をおこすような系です。50年前に予言されていましたが、つい最近、ケプラーの惑星候補カタログに一個混じっているのが発見されました(Kruse and Agol)。レンズ増光は長周期になると強くなるので、より長周期のSLBをGPUで探し、さらに4こ見つけました。これらは追観測による視線速度曲線からも確認されました。新たに見つかったうちの3つは、片方が白色矮星になる際にしずしずと質量を相手の星に受け渡してできた連星のようです。これは 青色はぐれ星 (blue straggler) のfieldにいるものと性質が非常に似ています。銀河にはこのように、こっそりとパートナーに質量をわたして自分は白色矮星となって隠れてしまう人たちが1%くらいのオーダーで潜んでいるようです。

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Inverted transit by self-lensing binaries. SLB1–3 and a candidate (SLC4).

“Discovery of Three Self-lensing Binaries from Kepler”, Hajime Kawahara, Kento Masuda, Morgan MacLeod, David W. Latham, Allyson Bieryla, Othman Benomar

Accepted for publication in the Astronomical Journal arXiv:1801.07874,

冷たいトランジット惑星探査

14万個の恒星のライトカーブを4年弱にわたり観測したケプラー衛星は数千個のトランジット惑星候補を発見した。その多くは周期が1日から100日程度の短周期惑星である。これはトランジット確率が軌道長半径に反比例するのと、トランジット回数が増えればそれだけ検出されやすくなるせいである。つまり、ケプラー衛星でみつかる惑星は、太陽系の惑星と比較すると相対的に恒星に近く暑い環境にある惑星が多い。では、太陽系の惑星のようなもう少し公転周期の長いトランジット惑星を探索するにはどうすればいいだろうか。

例えば、公転周期が数年の惑星は、ケプラーの観測期間に1, 2回しかトランジットしない。そうすると通常の惑星検出アルゴリズムではみすごされる確率が高い。我々は、すでに(短い公転周期の)惑星候補がみつかっている7557天体を目視でチェックし、このような冷たい惑星を探索した。(実際にこの作業を行ったのは上原氏である)。彼の驚異的な集中力により、24個の系で28回の単一トランジット現象を発見した。そのうち、惑星の可能性が最も高いのは下の図の7個であり、これらは一個を除くとこれまで未報告の候補である。さらに、ほとんどがコンパクト多重惑星系に存在している。これから、コンパクト多重惑星系には20パーセント以上の確率で長周期巨大惑星(海王星から木星サイズ)が存在する事が予想される[1]。

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astrobitesにElisabeth Matthews氏が素晴らしい解説をかいてくれたのでそちらも参照されたし。

http://astrobites.org/2016/02/29/icy-giants-kepler-exoplanets-on-long-period-orbits/

Transiting Planet Candidates Beyond the Snow Line Detected by Visual Inspection of 7557 Kepler Objects of Interest, Sho Uehara, Hajime Kawahara, Kento Masuda, Shin’ya Yamada, Masataka Aizawa, ApJ accepted, arXiv:1602.07848,

スーパーフラットな階層的三体系KIC 6543674

この系は、周期2.4日の食連星である。しかし4年のケプラー観測期間にたった一回だけ、食連星の同士の食とは異なる奇妙な食が発見された。我々は、この奇妙な食が長周期の第三体目の天体によるものと考え、どのような配置ならばこのような奇妙な食が再現できるかを明らかにした。増田氏による精巧なモデリングと統計的考察の結果、この三体系の構造が明らかになった(下図参照)。我々の方法では、視線速度法などの通常の方法を介さずに、ケプラーのライトカーブのみを使って三体の質量を含む全ての軌道パラメタを決める事に成功している。結果、この三体はお互いにほぼ揃った軌道面をもっているスーパーフラットな階層的三体系であり、かつ三体目はエキセントリックな軌道をもつことが判明した。我々の結果は、このような系はどのように形成することができるのか、という理論的課題を提出したといえよう[2]。

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Absolute Dimensions of a Flat Hierarchical Triple System KIC 6543674 from the Kepler Photometry, Kento Masuda, Sho Uehara, Hajime Kawahara, ApJL, 806, L37 (2015), arXiv:1506.01891,

Star-Planet Interactionを探るための時系列解析

2012年にRappaportらによってKeplerのアーカイブデータから発見されたKIC 12557548のトランジット現象は興味深い特徴を持っている。トランジットの深さが木星サイズに相当する1%程度からほぼ0になるまで激しい変動をおこしている。またこれをスタックしたトランジット光度曲線は、上のように非対称な形状を持っている。現在、この現象の最も普及している解釈は、これは恒星近くを回る小さな惑星から大量のダストとガス(1地球質量/Gyr以上)が放出されているというものだ。ダストによりつくられた尾と前方散乱がこのライトカーブのTailとBumpを説明する。この惑星(候補)は、その位置から2000度近い表面温度になっているが、もしもそれだけで大量の大気散逸を起こすためにはかなり小さな質量の惑星でないとならない(例えば0.02 地球質量以下; Perez-Becker and Chiang 2013)。

もしかしたらこの惑星の蒸発現象には恒星の活動領域が関係しているかもしれない。そこでこの天体のKepler 3.5年の時系列データから、恒星フラックスの変動時系列データとトランジット深さの時系列データをそれぞれ抽出して解析した。この二つの時系列データの周期解析をするとどちらも同じ22.8日に有意な周期が現れた。特に恒星フラックスの時系列周期は顕著であり、この周期は恒星の自転周期に対応していると考えられる。

恒星のフラックスが小さいとき、トランジット深さが30%程度深くなっていることが分かる。これは恒星の黒点の側を惑星が通過するときに、より影が大きくなると解釈できる。何らかの形で恒星表面の活動領域(黒点)からエネルギーが惑星に供給され、ダストおよび大気散逸が増大することを示しているかもしれない。現時点ではこのエネルギー源は不明だが、活動領域からのX・UVか高エネルギー電子などが候補に上がっている。もしくは恒星風が関係している可能性も残されている。

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Visible, EUV, and X-ray images of Solar Active Region AR 9393 (Credit: NASA)

Starspots - Transit Depth Relation of the Evaporating Planet Candidate KIC 12557548b, Hajime Kawahara, Teruyuki Hirano, Kenji Kurosaki, Yuichi Ito, Masahiro Ikoma,

ApJ Letters 776, L6 (2013), arXiv:1308.1585, IOP