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人工衛星のライトカーブ解析

シングルトランジット現象を用いた冷たいトランジット惑星探査

これまでに数千個の太陽系外惑星が発見されています。しかし惑星の性質を探ることのできる手法という意味では、太陽系の惑星に対応する領域にはまだ到達していません。系外惑星により太陽系惑星科学を普遍化するためには、このような領域のトランジット惑星や直接撮像惑星を探査することが最も重要です。

約20万個の恒星のライトカーブを4年弱にわたり観測したケプラー衛星は数千個のトランジット惑星候補を発見しました。その多くは周期が1日から100日程度の短周期惑星です。つまり、ケプラー衛星でみつかった多くの惑星は、太陽系の惑星と比較すると相対的に恒星に近く暑い環境にある惑星が多いということになります。これはトランジット確率が軌道長半径に反比例するのと、トランジット回数が増えればそれだけ検出されやすくなるということもあります。ところでケプラーの観測寿命であった4年に近い公転周期に対応するところは、古典的な形成論での雪線、すなわち円盤の水蒸気と氷を分かつ境界付近に対応しています。太陽系では木星や土星といった巨大ガス惑星は、氷により大きなコアを持つことができる雪線以遠で形成されたと考えられています。それでは、雪線付近やそれ以遠の公転周期の長いトランジット惑星を探索するにはどうすればいいでしょうか。例えば、公転周期が数年の惑星は、ケプラーの観測期間に1, 2回しかトランジットしません。そうすると通常の惑星検出アルゴリズムではみすごされてしまします。そこで我々は、観測期間中に1回、ないし2、3回しかトランジットしていない惑星を探しました。

最初は、すでに(短い公転周期の)惑星候補がみつかっている7557天体を目視でチェックし、このような冷たい惑星を探索しました(。その結果、7個の長周期惑星候補をを発見しました。さらに、ほとんどがコンパクト多重惑星系に存在しています。これから、コンパクト多重惑星系には20パーセント以上の確率で長周期巨大惑星(海王星から木星サイズ)が存在する事が予想されます。ここで一回のトランジットでどうして周期がわかるのかと思うかもしれませんが、それは内側の惑星によって恒星の密度がわかり、そうすると一回のトランジットの通過時間とあわせることで周期が推定できます。その後、さらに系統的に探索することで67個の長周期惑星候補カタログを作成しました。その結果、雪線付近には、オーダー1でガス惑星が存在し、さらに土星より小さい海王サイズの惑星も頻繁に存在していることがわかりました。

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ケプラー探査機データ中の長周期惑星候補(青)。灰色はケプラープライムミッションで発見された惑星候補。

自己重力レンズ連星

自己重力レンズ連星 (Self-lensing binary; SLB)は、連星のうちのコンパクト星が、もうひとつの星の前を通過する際に重力マイクロレンズ増光をおこすような系です。50年前に予言されていましたが、つい最近、ケプラーの惑星候補カタログに一個混じっているのが発見されました(Kruse and Agol)。レンズ増光は長周期になると強くなるので、より長周期のSLBをGPUで探し、さらに4こ見つけました。これらは追観測による視線速度曲線からも確認されました。新たに見つかったうちの3つは、片方が白色矮星になる際にしずしずと質量を相手の星に受け渡してできた連星のようです。これは 青色はぐれ星 (blue straggler) のfieldにいるものと性質が非常に似ています。銀河にはこのように、こっそりとパートナーに質量をわたして自分は白色矮星となって隠れてしまう人たちが1%くらいのオーダーで潜んでいるようです。

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References

Dippers from TESS Full-frame Images. II. Spectroscopic Characterization of Four Young Dippers

Yui Kasagi, Takayuki Kotani, Hajime Kawahara, Tomoyuki Tajiri, Takayuki Muto, Masataka Aizawa, Michiko S. Fujii, Kohei Hattori, Kento Masuda, Munetake Momose, Ryou Ohsawa, Satoshi Takita arXiv:2201.09459, Accepted by ApJS (2022)

Dippers from the TESS Full-Frame Images I: The Results of the first 1 year data and Discovery of A Runaway dipper

Tomoyuki Tajiri, Hajime Kawahara, Masataka Aizawa, Michiko S. Fujii, Kohei Hattori, Yui Kasagi, Takayuki Kotani, Kento Masuda, Munetake Momose, Takayuki Muto, Ryou Ohsawa, Satoshi Takita, ApJS, 251, 2 (2020) arXiv:2009.12830,

Self-lensing Discovery of a 0.2M⊙ White Dwarf in an Unusually Wide Orbit Around a Sun-like Star

Kento Masuda, Hajime Kawahara, David W. Latham, Allyson Bieryla, Masanobu Kunitomo, Morgan MacLeod, Wako Aoki , ApJL 881, 1 (2019), arXiv:1907.07656, AAS NOVA,

Transiting Planets near the Snow Line from Kepler. I. Catalog

Hajime Kawahara, Kento Masuda, AJ 157, 6 (2019), arXiv:1904.04980,

Discovery of Three Self-lensing Binaries from Kepler

Hajime Kawahara, Kento Masuda, Morgan MacLeod, David W. Latham, Allyson Bieryla, Othman Benomar, AJ 155, 144(2018), arXiv:1801.07874,

Transiting Planet Candidates Beyond the Snow Line Detected by Visual Inspection of 7557 Kepler Objects of Interest

Sho Uehara, Hajime Kawahara, Kento Masuda, Shin’ya Yamada, Masataka Aizawa, ApJ, 822, 2 (2016), arXiv:1602.07848,